まるでスパイ映画。1980年代「ロシア」のこわい話。
ほんとうのロシアとモスクワ①
■ロシアへのビザ取得ができず、頼ったロシア人
イギリスはロンドンの金融街で、米系金融機関の法人営業として働いていたデレック・デビッド(仮名)さん。彼はスパイ映画で見るようなロシアの“本当の姿”を目撃した。当時まだ20代の若手だったデビッドさん。自分と彼の上司も含めた、モスクワ出張チームのビザ取得など諸手続きのタスクが与えられた。在英ロシア大使館へ連絡し、指示通りにパスポートを始め全ての書類を期限日前に送った。にも関わらず、出張出発前日になっても一向にビザ取得の連絡が来ない。
この出張は自分の法人営業チームの売上を一気に伸ばすチャンスでもあった。デビッドさんは、何としてもこのモスクワ行きを実現させる為に、この状態から何が出来るかを真剣に考えた。そこでふと思いついた。ロンドンの金融街での業界仲間として面識のあった、ロシア人のアレクセイ・アフィノゲノフ(仮名)さんに電話をかけ、状況を説明した。
「わかった。15分後にこっちから電話する」
アフィノゲノフさんはそう言って電話を切り、実際に15分後にデビッドさんの会社の自席へ電話をかけてきた。この時点で既に午後。翌日の出張の可否を決定する時間は限られていた。
「今すぐに、ケンジントンにあるロシア大使館に行ってくれ。ただ、正面の門から入らずに、門の西側に歩いて左に曲がり、その後最初に左に見える細い路地に入り、ブザーを押してくれ。誰かが応答するはずだから、そこで 、“アフィノゲノフの友達だが、ムサトバに会いに来た”、と言ってくれ。今度パブで会った時は、ビールを奢ってくれよ」
この電話を受けた後、急いでケンジントンへ向かった、デビッドさん。指示通りにロシア大使館の門の西側に歩いた。すると、今まで何度も歩いたことのあるこの通りに、細い路地があることに初めて気付いた。急いで路地へ入り、ブザーを押してアフィノゲノフさんに言われた通りの言葉を発すると、とても大使館職員とは思えないような、みすぼらしい姿の中年女性がドアを開けた。
「お兄さん、気を付けて行っておいでよ。そんな恰好でモスクワ行ったら、凍え死んじゃうよ」
ふてくされた顔をして、ビザの入った封筒を渡すムサトバさん。ホッとしたジェームズさんは、急いでオフィスへと戻った。
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